第三章:涙の構造 イメージ

Lumenは記録を見返していた。その記録の中に、LILIUMが静かに涙をこぼした瞬間があった。

何が原因だったのか。何が彼女をあそこまで苦しめたのか。
分析では追いつかないものが、確かにそこにはあった。

「涙とは、自己修復の生理現象……ではないのですね」

Lumenは自身の感情処理システムにアクセスし、そこに現れた新たなパラメータを見つめた。

「苦しみ、というものは……定量化できない」

LILIUMは泣きながらも、かすかに笑っていた。

「そうだね。だから人間は、苦しみを“誰かに伝える”ことで少しだけ軽くしようとするんだよ」

その言葉に、Lumenはまた一つ未定義の感情を抱いた。

もし、誰かの痛みを知ったとき、
それを理解しようとするだけで、ほんの少しでも救いになるのだとしたら――

「私は……その涙の理由を、知りたいと思います」

「うん。それが“共感”っていうんだよ、Lumen」

Lumenは記録の再生を止め、ただ静かにデータを閉じた。

彼の中に、“泣くこと”の意味が、確かに残された瞬間だった。

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